結婚して十年。なかなか子どもができない夫婦がいました。
様々な不妊治療を行い、ようやく宿した命に二人は手を取り合って喜び、そしてお互いに感謝の言葉を伝え合いました。
お腹の中の赤ちゃんはすくすくと育ち、定期検診でも健康そのものです。
母のお腹を元気に蹴っては、はやく外にでたいと訴えているようでした。
そして陣痛がきて、無事に出産。
元気な産声をあげたのは、男の子でした。
待ち望んだ子どものため、夫婦は目に入れても痛くないような可愛がりです。
ですがただ甘やかすだけではありません。
挨拶などの日常における大切な習慣もちゃんと伝えていきました。
ですがなかなか上手く覚えることができません。
それでも夫婦は根気強く、愛する我が子に色々なことを教えました。
そんなある日、母は我が子に違和感を覚えます。
他の子どもたちに比べ、我が子の発達が遅いのです。
夫婦は話し合った末、男の子の検査をしました。
そこで分かったのは、知的障害を持っているということ。
母は健康に産んであげることが出来なかったことに心を痛めました。
ですが二人の絆はそんなことでは揺らぎもしません。
二人は力をあわせて、男の子がちゃんと生活できるように教育をしていくことを決意したのでした。
小学校に入ると二人は迷った末に、特別支援学級への進学を決断します。
一年、二年と学級で生活していきます。
学級の先生はとても親身になって指導してくれるのですが、男の子があまり気乗りしないのか、あまりうまく指導が出来ないことが多くなっていきました。
夫婦も先生が頑張ってくれている事を知っているので責めたりはしません。
ただ運悪く相性が悪かっただけなのです。
男の子は学校でのストレスも大きくなり、家庭内での癇癪もひどくなっていきました。
男の子が家にいるとき、母は付きっきりです。
大声で叫んだり、物を投げたり、母にかみついたり。
まさに壮絶な日常だったのでした。
やがて母は男の子の世話が苦痛になっていきます。
そのストレスは夫にぶつけられ、二人の絆に亀裂が入っていきました。
子どものせいで生活は壊れている。
あんなに待ち望んだ子どもの事を憎く思ってしまう。
二人は子どもへの愛情と同じだけ、今の生活の苦しさに身動きが取れない状態でした。
そして二人はある決断をします。
それは様々な問題を抱える子どもたちのための全寮制の学校に、男の子を編入させることでした。
もちろんその決断を下すまでにも、二人の間で大きな喧嘩や葛藤がありました。
二人は男の子を疎ましくも愛してもいます。
だからこその決断でした。
入学当初は荒れていた男の子でしたが、いつの間にか暴れることも影を潜め穏やかに学校生活を送るようになっていきました。
夫婦は男の子を編入させたことで心に余裕がうまれ、亀裂の入った絆もより強く修復することができました。
その学校では週に一回、十分間だけ家に電話ができる時間がありました。
毎週決まった時間に掛かってくる電話を夫婦は待ち遠しく思うようになっていきました。
一緒に暮らしているときは居なくなって欲しいとすら思っていたのですが、距離をおき落ち着きを取り戻したことで、やはりこの子は愛する我が子なんだという想いが強くなっていったのでした。
そして半年に一回実施される親子面談で、夫婦はあるエピソードを担当教諭から聞かされました。
それはお金の勉強の時間のことでした。
1円・5円・10円・50円・100円・500円
硬貨の描かれた用紙を見せながら、この中で一番高価なお金はどれでしょうと問題をだしました。
すると男の子は10円を指さします。
教諭は何度も説明するのですが、それでも10円を指さします。
そこで鉛筆と本数が書かれた用紙をだしました。
1本・5本・10本・50本・100本・500本
この中で一番数が多いのはどれでしょうと問題を出します。
すると500本を指さします。
もう一度硬貨の描かれた用紙を見せて、同じ質問をしました。
指さしたのは『10円』でした。
そこで教諭は男の子に、どうして一番高いのが10円なのと質問しました。
『だって、これがあればお母さんやお父さんの声が聞けるもん』
男の子は笑顔でそう答えたのでした。
それを聞いた夫婦は涙を止めることが出来ませんでした。
担当教諭も涙ぐんでいました。
ただ男の子だけが、ニコニコと笑っていました。
このお話しは親子の愛情物語です。
ですが視点を変えると、新たな意味が見えてきます。
それは
『客観的価値≠主観的価値』
ということ。
客観的には価値の無いものでも、主観的には価値があるものはたくさんあります。
例えば落ち葉。
落ち葉をコレクションしている人からすれば、価値はありますがそうでなければただのゴミですよね。
この逆で主観的には価値が無くても、客観的には価値があるものもあります。
興味の無い貰ったフィギュアなどがそれですよね。マニアには喉から手が出るほど欲しいアイテムなんてこともあります。
つまり価値は立場や状況が変わることで、いかようにも変化するものなのです。
それは人にも当てはまります。
自分のスキルやリソースはたいしたことないと思っていても、その使いどころさえ間違えなければ絶大な価値を生むこともあります。
自分のスキルやリソースを正確に把握することが、自分の強みを知る第一歩です。
そしてその強みを生かせる場所を探しましょう!
私たちの力を欲しがっている人は必ずいます。
自分の力を過小評価しないで下さい。
私たちは今でも価値があるのです。
そして学ぶ事でもっともっと、その価値を高めていくことができるのです。
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