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「引き寄せの法則」と量子力学の嘘

 

「思いが現実をつくる」――

そんな言葉に励まされた経験、誰しも一度はあるかもしれません。

自己啓発やスピリチュアルの世界で語られる引き寄せの法則は、そんな希望の光を与えてくれる考え方です。

 

でも近年、それが「量子力学で証明されている」といった主張まで見かけるようになりました。

最先端科学と結びつけられると、なんだか信憑性がありそうに感じますが、それは本当に正しいのでしょうか?

 

ということで今回は、「引き寄せの法則」と量子力学の関係について、科学的な視点から丁寧に検証していきます。

きっと新たな視点が得られると思うので、最後までぜひ読んでみてくださいね。

 

 

「引き寄せの法則」とは――

その魅力と広まり方

 

「引き寄せの法則」とは、自分が強く願ったことや、ありありと思い描いたイメージが、現実の出来事として現れる――

そんな考え方を指します。

 

特にポジティブな思考を心がけることで、ポジティブな出来事が次々と自分のもとに引き寄せられてくる、とされるこの法則は、多くの人に希望や勇気を与えてきました。

 

この考え方が広く知られるようになったきっかけは、2006年に出版されたロンダ・バーンの著書『ザ・シークレット』です。

同書は世界中で3500万部以上を売り上げ、瞬く間に自己啓発ブームの火付け役となりました。

 

そこでは「思考はエネルギーであり、宇宙に働きかける力を持つ」と語られ、多くの読者が「人生を自分の力で好転させられる」と信じるきっかけとなったのです。

 

「うまくいかないのは、自分の考え方がネガティブだからなのかもしれない……」そう思ったときに、引き寄せの法則は一筋の光のように感じられることがありますよね。

現実に行き詰まりを感じているとき、何かを変えたいと願っているとき、思考を変えることで未来も変わるかもしれないという考えは、私たちに「希望という選択肢」を与えてくれるのかもしれません。

 

 

量子力学を持ち出すと――

 

引き寄せの法則を語るとき、「量子力学がその裏付けになる」といった主張を目にすることがあります。

「すべてはエネルギーであり、波動である」とか、「意識が現実をつくる」といった言葉が並ぶと、なんだかとても科学的な響きに感じられて、信じてみたくなる気持ちもわかりますよね。

 

実際によく引用されるのが、量子物理学における「二重スリット実験」や「観測者効果」、さらには「シュレディンガーの猫」のパラドックスなどです。

これらの現象をもとに「人間の意識が物質世界を変える証拠だ」とされることがあります。

 

たとえば「シュレディンガーの猫」の話はこうです。

ものすごく単純化すると、箱の中には猫と毒ガス発生装置が入っています。

装置のスイッチがいつオンになるかは、完全なランダムとします。

すると、箱を開けて観測するまでは、猫は「生きている状態」と「死んでいる状態」が重なり合って存在しているとされます。

 

この例がよく誤解されるのは、「観測(つまり人間の意識)が現実を決定づける」という点に飛躍してしまうところです。

しかし、量子力学の世界でいう「観測」とは、人間の意識ではなく、物理的な測定や装置との相互作用を意味します。

測定が行われたときに状態が一つに定まるというのは、あくまで数学的・物理的な法則に従った現象であって、「念じれば結果が変わる」といった話ではないんですね。

 

また、「すべては波動だから、自分の思考の周波数を整えれば、宇宙と共鳴して望む現実が引き寄せられる」といった言い回しもありますが、これは科学的には非常に曖昧です。

「波動」「周波数」といった言葉は、本来は具体的な物理量に基づく定義があります。

人間の思考や感情が、物理法則に基づいた波動として宇宙に影響を与えるというのは、ロマンはありますが、科学的な裏付けは存在しません。

 

こうした量子論の誤用は、まさにもっともらしさの罠です。

「量子力学が引き寄せの法則を証明している」と聞いたときには、ちょっと立ち止まって、「その科学用語、本来の意味とは違っていないかな?」と考えてみるのが大切かもしれません。

科学を味方につけたいなら、正しく理解することが第一歩なんですね。

 

 

物理学と心理学の見解

 

物理学者たちは、「引き寄せの法則に科学的根拠はない」と明言しています。

量子論的な用語の使い方も誤っていることが多く、「エネルギー」や「波動」などの言葉が本来の意味から逸脱して使われているのが現状です。

 

一方で、心理学の分野では、「ポジティブな思考がストレス緩和や健康に良い影響を与える」といった研究は多くあります。

しかし、それはあくまで「前向きな姿勢が行動や回復力にプラスになる」という意味です。

 

「思えば叶う」という考えが、現実逃避や努力の欠如につながってしまうリスクも指摘されています。

夢を見るのは良いことですが、夢をかなえるには行動や現実的な計画が必要だと、心理学者も警笛を鳴らしているんですね。

 

 

「思い込み」は現実を変える?

 

興味深いのは、信念が人の行動に影響を与えるケースです。

「自分はきっとうまくいく」と思うことで、態度が変わり、周囲からの反応もポジティブになりやすくなります。

これを心理学では「自己成就予言」と呼びます。

 

つまり、「願いが叶った」のではなく、「願ったことで行動が変わり、結果につながった」と言えるんですね。

たとえば、「面接で成功したい」と強く願っていた人が、自信ある態度で臨むことで合格を勝ち取るといった感じです。

 

こうした変化は科学的にも説明がつくものであり、魔法のような引き寄せではありません。

大切なのは、信じる力と同時に、現実を見つめる力を持つことなのかもしれません。

 

 

 

ここまでつらつらと好き勝手に書いてきましたが、「引き寄せの法則」がもたらす希望や前向きな気持ちは、決して否定されるべきものではありません。

 

夢を思い描くことは、私たちにとって大切な心のエネルギーになります。

ただし、それが「願うだけで叶う」といった極端な思考になると、現実とのギャップに苦しむことにもなるかもしれないのです。

 

科学的には、思考が直接、物質世界を変えるという根拠は見つかっていません。

だからこそ、「思い+行動」のバランスが大切なんですね。

 

願いを胸に抱きながらも、一歩ずつでも現実的な行動を重ねていく。

そんな姿勢が、最終的に私たちを夢に近づけてくれると、僕は思うんです。

 

あなたはどう思いますか?