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そこは冷淡な街なのか?

 

19643月、アメリカ・ニューヨークの静かな住宅街で起きたある殺人事件が、全米を震撼させました。

一人の女性が夜道で襲われ、多くの住民がその悲鳴を聞きながらも、誰一人として助けに行かず、通報すらしなかった――

そんな報道が世界を駆け巡ったのです。

 

この事件は、人間の冷淡さや都市の無関心さを象徴する出来事として知られるようになりました。

しかし、果たして本当に「誰も助けなかった」のでしょうか?

そして、人々はなぜ通報しなかったのでしょう?

 

これからその「悲劇の街」で起きた、謎を紐解いていこうとおもいます。

この謎を知ることで、あなたの命を守ることができるかもしれません…。

 

 

ジェノヴィーズ事件とは

 

被害者は、キティ・ジェノヴィーズという28歳の女性。

 

彼女は仕事を終えた夜、自宅近くで何者かに襲われました。

犯人のウィンストン・モズレーは、彼女が車から降りてアパートへ向かって歩いているときに近づき、背後から刺したとされています。

 

彼女は大声で助けを求め、その叫びは近隣の住民に届きました。

何人かの住人が窓を開け、事件の様子をうかがったことで、モズレーは一度その場から離れました。

しかし、窓の明かりが次々と消え、人々の気配が薄れると、彼は再び戻ってきて、負傷したジェノヴィーズに再度襲いかかりました。

 

彼女は逃げようとしながらも途中で倒れ、最終的に建物の裏口付近で力尽きてしまいます。モズレーはそこでとどめを刺し、逃走しました。

 

報道によれば、38人もの住民が事件を目撃していたにもかかわらず、誰一人として警察に通報せず、彼女は約30分間にわたり襲われ続け、命を落としたとされます。

 

 

マスコミによる住人への非難

 

事件が報道されるや否や、アメリカ国内では強い衝撃と怒りが巻き起こりました。

なかでもニューヨーク・タイムズ紙は、「ジェノヴィーズは大声で助けを求めたが、近所の住人は誰ひとり警察に通報しなかった」と大きく報じ、住人の冷淡さを厳しく糾弾しました。

 

この報道を受け、多くのメディアが「都市生活者の無関心さ」や「現代人の道徳的衰退」を非難し、ニューヨークという街そのものが非人間的で冷酷な場所であるかのような印象を世間に植え付けていきました。

 

「誰か一人でも動いていれば彼女は救えた」「都会の人間関係はあまりにも希薄だ」といった論調が広まり、ジェノヴィーズが暮らしていた地域の住人たちは、まるで共犯者のように扱われたのです。

 

このようにして事件は、ひとつの殺人事件にとどまらず、人間性そのものを問う社会的テーマへと広がっていったのでした。

 

 

ラタネとダーリーの実験

 

この事件に触発された社会心理学者、ジョン・ダーリーとビブ・ラタネは、「なぜ人は集団の中で行動を起こさないのか?」を研究し、傍観者効果(bystander effect)という概念を提唱しました。

 

彼らの実験では、被験者が一人のときと複数人と一緒のときで、他人が助けを求めている場面に出くわした際の反応を比較しました。

結果、他人がいると「誰かが助けるだろう」という心理が働き、自分が行動に出る確率が著しく下がることがわかったのです。

 

これは「責任の分散(diffusion of responsibility)」と呼ばれる心理現象で、集団の中にいると自分の責任感が薄れるため、助けに行かなくなってしまうのです。

 

 

傍観者になっていないか?

 

私たちの毎日にも、ジェノヴィーズ事件のような状況は潜んでいます。

駅のホームで倒れている人を見たとき、SNSで誰かが誹謗中傷を受けているのを見かけたとき、「誰かがやるだろう」と思って行動を起こさないこと、ありませんか?

 

以前、僕が道を歩いているとき、20m先を歩いていた男性が突然倒れるのを目撃したことがあります。

僕と倒れた男性との間には、3人の人が歩いていました。

もちろん、倒れる瞬間を見ています。

でも、3人ともに歩みを止めることも、駆け寄ることもしませんでした。

 

倒れた男性から一番離れていた僕が一番に駆け寄り、怪我の状態などを確認しながら、救急に通報をしたことがあります。

 

「誰かが対応するだろう」「私の出る幕ではない」

そんな無意識の思い込みのせいで、行動が阻害されてしまうのです。

 

このような傍観者効果を無効化するためには、まず「自分が当事者である」という意識を持つことが重要です。

 

心理学者たちは、「特定の人に呼びかける」「具体的な役割を与える」ことが効果的だと述べています。

たとえば、「誰か救急車を呼んでください!」ではなく「あなた、救急車をお願いします!」と指名することで、人は責任を感じ、行動に移りやすくなるのです。

 

また、傍観者になるリスクを意識的に認識しておくことも、予防につながります。

自分自身が「行動する人間でありたい」という姿勢を日頃から育んでおくことが、他者を救う力になるのです。

 

 

 

「そこは冷淡な街なのか?」――

この問いに対する答えは、決して単純ではありません。

ジェノヴィーズ事件を通して見えてくるのは、人間の冷たさではなく、「心理的な構造」によって生まれる行動のギャップです。

 

私たちも、いつか何かの現場に立ち会うことがあるかもしれません。

そのとき、「誰か」ではなく「自分が」行動を起こせるように、日々の意識を少しずつ変えていきたいですね。

 

小さな勇気が、誰かの命を救う力になる。

そういった意識を持てる自分になっていきたいですね。

 

 

 

 

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